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ジャム・セッション 石橋財団コレクション× 山城知佳子×志賀理江子 漂着──複雑なことを複雑なまま

赤い液体の入った瓶を持った人物の写真
志賀理江子《大五郎の逆さ舟》2025 年 ©Lieko Shiga. Courtesy of the artist

現在Artizon Museumで開催されている「漂着」展には「石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子」というサブタイトルがついているが、ほぼ山城和佳子と志賀理江子の二人展であり、二人の展示作品は、形式的に対照的である。前者のインスタレーション《Recalling(s)》(2025)は主に解像度の高い、劇的な映像で構成されており、後者のインスタレーション《なぬもかぬも》(2025)は作り手の手を感じさせるフォトモンタージュとテキストで埋め尽くされている。それらを繋げるのは、志賀の拠点兼題材である「東北」と山城の同対象である「沖縄」が歴史的に、日本に周辺化され、支配され続けてきた事実とその為に現在する歴史的トラウマ、そしてそれに対するインターセクショナルでありポストコロニアルな観点と応答だ。

志賀の作品は日本の近代化から省かれ、そして同時に経済成長の代償を払わされてきた東北と、近代のなかで重視されてきた生産性や合理性とは異なった地元の価値や神話から将来性を見出している。山城の代表的作品は沖縄の歴史を題材としているが、《Recalling(s)》(2025)ではその歴史を日本によるパラオの植民地化の歴史と紡ぎ、この歴史の複雑さを象徴するかのように、同インスタレーションは暗く、複数のビデオ・プロジェクションの間に壁はなく、そこから放される複数の声は響き合い、個別の声を聞き取ることを意図的に難解にしている。その結果、方角も分からなくなり、宙吊りされているような気がした。

山城知佳子《Recalling(s)》2025 年 の展示写真
山城知佳子《Recalling(s)》2025 年 © Chikako Yamashiro. Courtesy of the artist Photo: kugeyasuhide

しかしこれはバベルの塔のようなモラルに基づいた罰ではなく、複雑なことを省略化せず、複雑なまま見せる倫理的試みであろう。マルティニーク出身の作家エドゥアール・グリッサンは他者の「不透明性への権利」を倫理の問題として説き、<混沌>はその要素全てを「同じように必要と発想するときに美しくなる」と論じている。ではそれらの要素、この展示では<日本>、<東北>、<沖縄>、<パラオ>、の間にどのような関係を「漂着」展は現しているのか?そこには時間と空間を紡ぐ共鳴と隣接があり、その関係性を通して二人の展示が体現しているのは目撃と証言だろう。

しかしながら山城と志賀の展示が証言している歴史には耐え難い痛みがあり、足を踏み入れた私は「もっと早く観たかった」と思う一方、胸苦しく、「早く出たい」とも思ってしまった。特に志賀の展示は、「なぬもかぬも」と書かれた手のひらの写真、そして壁一面を覆う青黒い写真の上に白字で書かれた「おれ、逝ったぞ」というメッセージで始まり、後に「なぬもかぬも」は両犠牲を持つ言葉だと判明するのだが、それでも絶望感は拭えない。青黒く表せられた海水も、もちろん死のみを象徴するはずなく、「三陸の海――命の鍋」とも表記されているが、私の頭の中ではその暗さが、ブルースの詩論を代表し、構造的暴力を批判したルイ・アームストロングの歌「what did I do to be so black and blue?」(註:「black and blue」には「黒人であり気持ちがブルー」と同時に「痣だらけ」の意味もある)と共鳴する。床には黒いビーン・バッグ・チェアが設置され、「おすわりください」とあるが、それは東北で除染土が詰め重なられている黒いフレコンバッグで作られている様で、座れば呪われるような恐怖さえ抱いた。

しかし「バッドラックをグッドラックに」する様に、呪いは祈りにもなり得る。「中尊寺建立供養願文」を筆で大きく書き写した壁があるこの部屋では常にカエルの声が鳴っている。そこには近代論理が尊重してきたヒューマニズム、技術、そして生産性からの方向転換のヒントがアニミズムと人間以外の存在がもつ主体性の認識にあるという訴えが痛烈に響いていた。

蛸の写真
志賀理江子《行ってはいけない、戻ってこい》2025 年 ©Lieko Shiga. Courtesy of the artist

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子 漂着アーティゾン美術館 2025年10月11日(土)– 2026年1月12日(月・祝)

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